アイドルを法的に守るには - 地下アイドルの法律相談: 深井剛志, 姫乃たま等

読前

私が覗いている大阪市立中央図書館並ぶ本棚。その声楽の棚に、内容とデザインからして明らかに目立つ警告色の装丁の本があった。

それは一般的にファンとの距離が特に近い芸能とされる地下アイドルの世界の契約や揉め事を、弱い立場にあるアイドルの側に立って編まれた「手引書」だ。

コンセプトから言って明らかに声楽の内容ではないが、それはそれとして私はかねてから地下アイドル関連の法務・契約・裁判には興味があった。

明らかに地下アイドルに関係する企業は零細事業者が多く見えるし、未成年の活動もよく聞く。そこでトラブルが起こるのは必至だろう。

また、アイドルの契約の問題というと「恋愛禁止」云々が有名だが、意外と法的にどうか、という話まで突っ込んだ記事は私は今まで読んだことも調べたこともなかった。

そんなわけで、法律関連ではなく「声楽」とした本のカテゴライズに疑問を持ちつつも (アイドル志望者の関心を引くためにわざとそう分類したのかもしれないが) 本書を図書館から借りていって家でゆっくりと読んでみることにした。

地下アイドルの法律相談 | 日本加除出版

契約

ゲリラ的な離合集散を繰り返す (言い方は悪いが匿名・流動型の) アイドルも存在するのかもしれないが、大抵の場合企業 (芸能事務所) との契約書があって初めてアイドルは誕生する。

一章はそのような形で結ばれたアイドルの労働契約そのもの、そして二章はその契約期間の問題を説明している。

杜撰な契約

愕然としたたのが解説役の深井剛志弁護士が記事の中で再三「契約書を交わすように」と念押ししている点だ。

実際に聞き手役の元地下アイドルのライター・姫乃たまも契約書の不在によって起こされたトラブルを業界では「よく聞く」と言うし、これがこの業界に大きく通底する問題であるのは間違いない。

もちろん契約書を結ぶケースの方が一般的だということだが、その結んだ場合の契約も事業者の方が相当強圧的な態度や条項で臨む場合が殆どのようだ。

特にアイドルが事務所を辞めた後の活動制限条項は、深井弁護士が「無効」と断言しているにも関わらず業界では大っぴらに行われているようだ。

地下アイドルは平たく言えばアイドル業界のインディーズだ。諸々の手続きが杜撰であるのは大方予想はついていたがここまで酷いものだとは思わなかった。

保護されるべき未成年の例外的な労働が、こんな杜撰な契約をする事業者に許されていいわけがない。

私はかねてから未成年者の芸能活動に反対だったが、こんな杜撰な契約を行うような事業者によって子供が労働を行うことが頻繁に起こる事態はあってはならないことだと思う。

ハラスメント

本書では続く二章に分けてアイドルが注意すべきハラスメントの類型が紹介される。

事務所の内部で起きたハラスメント

ジャニーズ事務所 (大手なので「地下」ではないが…) の事件があるから、私は事務所内部の人間が起こすハラスメントの問題性についてはある程度の察しは付いた。

大手ではなく地下アイドルの芸能事務所でも、同様の問題は周りからも本人からも認識されずに起こるらしい。

この一般の世界に「他人事」とされがちな世界の大人が子供に様々な形の暴力を行おうという様は、かつて欧米カトリックの孤児院で行われていた壮絶なレイプの常態化を彷彿とさせる。

宗教と芸能のこれらの不祥事は、表社会にどす黒い内幕を見せずにその逆を届けるのが仕事であったという点も共通している。

話は逸れるが、この手の見えない上に他人事にされがちな業界における子供の消費は一度網羅的に一覧してみて再検討してみたいと思っている。

日本版DBSはこれに対応するために作られた法律だとは思うが、芸能 (ジャニーズ) や宗教 (祭礼における稚児) 、その他諸々が対象になっていない時点で片手落ちどころじゃない程に抜けがあるし、 その点から考えても、一般社会が想定している子供の保護と利用のコミュニティが相当狭く定まっているのは確かだ。

この根強い偏見と視野の狭さによって、どれだけの子供が未然に防げたかもしれない暴力の被害に遭ってきたのかを考えると私は気が病んでしょうがなくなる。

子供が持ちえない参政権を持つ大人は、責任をもってこの問題に毅然と対応していかなきゃいけない。

ファンとのトラブル

大手事務所のアイドルよりもファン数が少なく感覚的な距離が近いとされる地下アイドルは、ファンとのトラブルも多く深刻化しやすい。

この場合は事務所とアイドルの利害が一致しているため事務所側に任せる方法を解説するのかと思いきや、
事務所側だけでなくアイドル側もはっきりと拒否を伝えることや証拠をアイドルの方で独自に保存することがはっきりと説かれていて、この問題でも相当な数の法的トラブルが起きてきたことが伺える。

自衛のために未成年者もいるアイドル自ら証拠を残すなどの負担を負う必要があるのは明らかに問題だ。
ここまで来たら業界が腐っているというより制度の設計が間違っているような気がしてくる。やはり再三主張するように児童労働の規制の見直しが急務かと思った。

アイドルを「法」で守るための良書

私は児童保護の関心から、これまで地下アイドルが受ける労働の環境・契約の酷さ・杜撰さを中心に本書を論じてきたが、そもそもの本書の趣旨は、アイドル当事者を法的に守りサポートすることにあることは深く承知している。

その点から言っても本書は間違いなく良書であると思う。具体的には、章ごとの主題に沿った数ページ程のマンガの挿入があったり、ついでに徹底して著者の露出がアイコン化されているのも良い。

他には、深井弁護士による対処の説明とは別に元アイドルの姫乃氏による彼らの心理に寄り添うコラムが設けられたりと、未成年の当事者にもストレスフリーに読めるようにするために様々な工夫が施されていることを確認できる。

また、保護者 (あるいは弁護士?) 向けか、本文で使用される言葉は正式な法律用語に統一して書かれている点も好印象だ。これならば、気になった当事者がWebで更なる調査をするのも楽だろう。
詳しい (小難しいともいう) 判例が巻末の付録としてこっそり収録してある点も、出典を気にしがちな私にとって好印象だった。

本書が弱い立場に置かれがちな労働者の必携の手引書として、業界の当事者に広く読まれることを願っている。

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本記事は、ブローガスト2026の3日目の記事です。

昨日 (2026年8月2日) の記事は「MUJI BOOKSの古本と『建築雑誌』2023年11月号の「にぎわい」特集」でした。

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