似た者同士のレコメンド
マツコ・デラックスの嘆き
マツコ・デラックスは、2025年6月に放送されたあるTV番組で、Yotutubeのおすすめがもたらす弊害についてこんなコメントをした。
自分とは水と油と思っていたものが、あまりにもおすすめで上がってくるから見てみたら、『やだ!』って電気が走るっていうことあるじゃない? あれを阻害してしまっている
彼女の意見を私なりにまとめてみると、何もしていなくてもエコーチェンバー現象に陥りがちなSNSで、自分の趣味と同質なものばかりを「おすすめ」され続けても困ってしまう。
それよりも、もっと水と油になるような刺激のある動画を「おすすめ」してほしい、というような内容になる。
www.nikkansports.com sirabee.com
SNSに聳え立つ「おすすめ」が囲った無数の壁
私はこの問題については全くマツコの言うとおりだと思っていて、
最近のSNSの設計は、人々の関係を同質化することに特化した、行き過ぎた「おすすめ」のシステムになっていると思っている。
これらのSNSは、次から次へと似たものをその精度をできるだけ高くしながら利用者のタイムラインに呼び出して、
その「おすすめ」によって利用者を洗脳するように、彼らが活動するコミュニティの範囲を段々と狭めていって、彼らを有害で異質なエコーチェンバーの閉じた壁に家畜を追い込むように囲っていく。
大半の人にとってはその均一で整えられた、同質性の高いコミュニティの状態が一番心地よく、
マツコや私のようなコミュニティの新天地を常に追い求め続ける探検家のような利用者は、そもそもインターネットという世界ではマイノリティなのだろう。
そもそも、「水と油」をその人の怒りや不快感に触れずに安全にレコメンドすることは技術的にとても難しく、キュリレーションのコストがかかるだろうし、
単純に、出来るだけ多くの人にとって居心地が良いように、滞在時間を増やすようにサービスを最適化する方が、運営する企業も広告収入などによって儲かることになる。
だから、このような人を落胆させるようなつまらない空間が、殆どSNSで用意されているのだろうと私は考えている。
「おバカで愉快なレコメンド」
タワーレコードのレコメンド
しかし、その対極にあるような、全く違う分野だが関連のあるものをおすすめするサイトが存在する。
それは、タワーレコードの商品ページにある「この商品を見た人はこれらの商品も見ています」のレコメンドだ。
タワーレコードのレコメンドの具体例
①有名アーティストの例「The Beatlesの通称"赤盤"」
まずはThe Beatlesの最新リマスターが詰まった公式ベスト盤の通称「赤盤」。

前掲のスクリーンショットを見れば、タワーレコードの「この商品を見た人はこれらの商品も見ています」に ビートルズや英国ロック、60'sのロックとは直接に関係のない日本のバンド・SUPER BEAVERの商品が表示されていることがわかる。
②マイナーなアーティストの例「Sympathy Nervousのセルフタイトル」
Symapthy Nervousというミニマル・テクノの界隈では世界的に有名なこのアーティストのセルフタイトルでリリースされたこのアルバム。
タワーレコードの運営によってこのアルバムは誤って「Jazz」のジャンルに登録されているが、この音楽はれっきとしたテクノである。
そして、その「Jazz」の記号を乗り越えるがごとく、タワーレコードのレコメンド機能は、ノイズミュージックの音楽がJazzの音楽と半々の割合で表示されている。

普通のレコメンド機能では、誤って登録された「Jazz」か本当のジャンルである「テクノ」に絞ってしまい、ほかのジャンルの音楽を表示しない、といったことになるだろう。
しかし、タワレコのレコメンドは「愉快でかつおバカ」なので、ここではどちらのジャンルのアルバムも表示されている。
ここにタワレコのレコメンド機能がおバカで愉快である特徴が詰まっていると思う。
タワレコのレコメンドの凄さ
音楽のエコーチェンバー現象に対抗
このように、タワレコの各商品ページのこの部分は時偶に全く関係のないアーティストを表示することがある。
まるで、タワレコという企業が、音楽のエコーチェンバー現象に対抗し、日本の音楽ファンのための音楽の趣味の多様化のために努力しているかに思える。いや、実際そうなのだろう。
ジョー・バターンをレイ・ハラカミで知る
実際に、私がこの「おバカでかつ愉快」なレコメンドで知った素晴らしい音楽は存在する。
数年前のある日、私はタワーレコードひあったレイ・ハラカミの初期作品集の商品ページで、 彼とは何の関連もないジョー・バターンというサルサ・ソウルのシンガー・ソングライターのアルバムを知った。
それからというもの、レイ・ハラカミはもちろん、ジョー・バターンも熱心に聴くようになった。
これはもちろんこのタワレコの「おバカで愉快なレコメンド」機能のおかげである。
終わりに
私はタワーレコードのサイト設計者は、レコメンド機能のこの「愉快でおバカな」スタイルを絶対に止めないでほしいと思う。
これは音楽ファンのDigg欲を満たすだけでなく、エコーチェンバー現象という社会の病に対抗する、SNSやインターネットの旗手でもあるとも思うからだ。
タワーレコードのこのレコメンド機能は、似たもの同士で寄り合うネットの砂漠の最後のオアシスとして、いつまでもこのような「おバカで愉快な」精度で提供し続けてほしいと私は強く願っている。