同人誌即売会を社史的に描く - コミティア魂 (ばるぼら+あらゐけいいち)

読前

私はコミティアについて、オリジナルの作品だけを扱った同人即売会ということまでの前提知識しかない。 しかし、元々同人の歴史には興味があったので、これ幸いと新刊コーナーにて目に留まった本書を手に取った。

コミティア魂 | 動く出版社 フィルムアート社

1980年代

委託販売専門の有用性

1980年代の黎明期のセクションでは、コミティアが創始した委託販売を専門とする独自の運営システム(45頁)の形成が紹介される。

この作家にとっての参加の気安さを保証するシステムが、このコミティア40年の歴史における拡大の原動力になったのではないか。そんな風に私は感じた。

読者視点に立った作家への挑発

1980年代の終わり、二代目のコミティアまとめ役である中村氏は、同人即売会で主体となりがちな描き手ではなくあえて読み手の側に立って挑発したという(58頁)。

なかなか手堅く運営しているなと思いながら読んでいたところにこれを見て、少し面食らったがこれは本書でも何度か言及されている中村氏の生粋の編集者気質の現れなのだと私は感じ取った。

1990年代

コミティア法人化

コミティアの法人化という本書のこの部分で、初めてコミティアがその後会社によって運営されてきたことを知った。 これは二次創作を扱うコミケには難しい運営形態だろう。

岡田斗司夫

Youtubeのデフォルトのおすすめで何かと見かける岡田斗司夫は、ひろゆきと並ぶネット上での存在感(と胡散臭さ)から何かしらの業績がある人なんだろうとは思っていたが、あの村上隆と比べられるほどに(165頁)当時文化的影響力を持っていた人だとは思わなかった。

本書は本題から逸れたサブカル関連の解説も、中々面白いところがある。

2020年代

クラウドファンディング

リアルイベントの運営者の大半がそうだったのだろうが、コロナ禍はコミティアという企業の収支を非常に悪化させた。 追い詰められた代表は、苦肉の策として一部参加者からも提案があったクラウドファンディングを企画。

結果としてそれは一日で目標金額を上回るという大成功の結果に終わり、その支援者の応援コメントを読んで代表は感動のあまり号泣したという。

これは、オタクの善意で生まれて支えられる性格のある同人の世界が見せたカッコいい一面の一つなのだと私は思った。

あらゐけいいち

本書の章ごとに数ページのマンガを掲載しているあらゐけいいちのマンガは、本書で初めて読んだが確かに伝え聞く評判通りにすごい漫画だった。

彼のマンガは、漫画が本来持っていた戯画的な、作者の意図をデフォルメする表現を中心に回っている。そういう作品だし、作家だと思う。
この奇想天外さとマンガの面白さは私が愛読してきた「でんぢゃらすじーさん(曽山一寿)」と同程度に面白く感じたが、その伝えたい意図をデフォルメした表現はあらゐの方が明らかに上手だ。

特に最後の2020年代のコミティアを描いたページで表現された読者と漫画家が「握手」するシーンは、私が最近読んできた中でも最もマンガ的な表現の一つだと感じるほどにすばらしい表現だった。 最近は私はマンガとアニメの趣味から離れていたため、彼の作品はその趣味への復帰の第一作として読みたい・鑑賞してみたいところだ。

総評

総評すると、本書はコミティアの歴史のみならず、コミティアが見てきた同人誌とそれを取り巻く歴史も知れる「同人史」の入門の良書の一つだ。

但し、コミケなどのコミティアに直接関わりが無い同人の歴史には、当然本書の「コミティア魂」の趣旨からしてあまり関係が無いためこれに触れていない。

そのために、これだけを読んで「同人史」を理解したというのは不十分だろうから、また機会があれば似た位置づけの同人史本を読んでみたい。

リンク集

公式・準公式

メディア掲載

個人の書評

ブログバナー