邦題への疑問
本書の前書きとして何か私の感想を書くとするならば、それは当然、本書のタイトルと内容の大きな乖離についてである。
まず、本書のこのタイトルを見ると、誰もがGoogleの検閲や情報の取捨選択に関して反対する活動家による告発本か何かだと思うだろう。
私が読んだこの本の実際は、それとは全く違う内容だった。
これは、フランス国立図書館長による、WEBの世界の企業と、本などメディアの関係性を語った、明らかにエッセイとして書かれた本である。
これでは詐欺のようなタイトルだと言わざるを得ない。 私は硬派な印象があった岩波書店が、ここまで本に対する洞察力の無い編集をする出版社だとは思っていなかったので、この酷いタイトルと内容のミスマッチには正直かなり驚いたところである。
第二章
仏TV会長パトリック・ルレーの発言
フランス初の民間テレビ放送局であるTF1の初代会長だったパトリック・ルレーは、二十年後の現在から見てみると、彼が当時想定した民放TV(そしてTF1)よりも、Youtubeなどの巨大SNS事業者を対象としたようにしか思えない、現在のネットの未来を先取りする発言をした。
その発言は「我々は、(スポンサーの広告を通じて、)利用可能な人間の脳の時間を売っている」という、本書二章の前書きで著者が引用(41頁)した言葉である。
これを、現代のSNS事業者が必死に行うネット利用者が有する可処分時間の獲得競争の時代を、それが行われる10年前からわずか数語で表現した素晴らしい名言だと私は感じた。
私としては、このような発言を行う理知的な人物が民放のトップにあるとは、フジテレビの問題が起きる日本から見ると中々に羨ましいところだとも思った。
※この発言について詳しく知りたい方は、「Temps de cerveau humain disponible」で検索のこと
広告がない唯一の情報媒体
著者が言った(48頁)「広告がない唯一の情報媒体」とは勿論本書も含む書籍というメディアの形態の事である。
そして、この広告に影響されないメディア世界のフロンティアを、広告に基づく検索エンジンによって影響力を持とうとするGoogleが手を伸ばすことは、このフロンティアの理想を破壊しかねない事態だと著者は強く警鐘を鳴らす。
これについて、Goodreadsなどの数々の書評サービスや蔵書検索サービスの収入源がAmazonのデータベースをアフィリエイトとしてリンクされている現状を考えると[関連記事]、これはかなり由々しき問題かもしれないと私はこれを検討した。
これだけで一つのブログの記事がこのブログに書けそうなほどに、これは非常に重要な問題だと私は思った。
WEBにおけるアメリカ=Googleの支配力
著者は、新興メディアであるWEBという世界の支配について、そのアメリカの影響力の強さと傲慢さに対する懸念を、手を替え品を替えこれまでかと言うほど表明している。
著者は、それにはフランスが映画産業で行った保護政策の成功体験がこの問題について関連すると、これを引き合いに出して(46頁)述べた。
※蛇足だが、訳者の解説でも、この著者の主張は本書の主要な話題の一つであるとして紹介されていた。
第三章
狭い事実と広範な話題の検索
著者は、Googleなどの検索エンジンが、狭い事実を検索するための「手軽な百科事典」から外れた時、利用者は、検索エンジンの「おすすめ」を鵜呑みにせず慎重に多くの結果を精査する必要があると引用を含めながらも述べた(72頁〜)。
私はこれについてまさに著者の主張のしている通りだと思っていて、賛否両論ある話題ほど「おすすめ」の記事で済ませてはいけないし、また様々な立場の多くの記事を読む必要があると常に考えている。
益々「富む」リンクの富者のWEB
著者はまた検索エンジンの順位付けについて、大きな影響力のあるGoogleの検索エンジンが他者からのリンクの集中度から、結果の順位を計算している現状から、 リンクの富者が検索の高い順位の優位によって更にそのリンクを増す「金持ちが益々富む」資本主義を想起させる現状を指摘した。
私は思うに、いくらWEBが多様で膨大であろうとも、探す手段が一様で局所的であったら意味が無いと思う。
だからこそ、我々WEBの社会を構成する一員は、前述の通り、検索結果の精査と選択の行為が、コストをかけても行う必要があると思った。
第五章
ハイテクほど脆いアーカイブのジレンマ
ここのところ、「最新技術」が革新するスピードは年々早まっている。
当然、そのような最近の技術の上に立つデジタル・アーカイブも、この互換性から取り残される技術革新の問題に無関係ではいられない。
本書の著者は、この問題に関心がないだろう短期利益を追求する民間企業たるGoogleに、グーグル・ブック・サーチの一員として公的機関のアーカイブを託していいのだろうか、と読者に疑問を投げかける。
年々素早く革新されていく最新技術の問題が、それによって成り立つデジタル・アーカイブに飛び火すると言う指摘は私には初耳だった。
確かに考えてみれば、未だに青空文庫の文字コードがutf-8ではなくJISのままだったら、利用者側は文字化けの連続に困ってしまってしょうがなかっただろう。
このジレンマは、私にとってとても学びのある気づきだった。
総評
総評すると本書は、文化政策に定評があるフランスの国立図書館長による本で、それだけはあって示唆的で有用な引用と認識が満載の、読んでいて沢山の気づきを得られる本だった。
本書はまた、現在から見ておよそ二十年前の2005年の昔に出版されたWEBの本としてはかなり古い本ではあるが、主題として扱っている問題はとても普遍的な話題を扱っているため、本書の読者はそれほど古さを感じずにこれを読むことができると思う。
私は、WEBというメディアが抱える根本的な問題に知りたい方には、ぜひ手に取ってほしいと感じた本だった。